

今回は、肩関節前方脱臼の整復法について説明を致します。
まず脱臼した経路の逆を辿って整復するコッヘル法について
①患者を坐位とし、助手が両肩部を固定します。術者は軽度外転位の上腕を長軸遠位方向へ牽引しながら、側胸壁に接近させます(内転)。
②牽引を持続し、上腕’肩関節を外旋します(外旋)。
③牽引の手を緩めず、外旋位のまま、前胸壁を滑らせるよう肘を正中面に近づけながら、屈曲します(内転、屈曲)。
④患側手掌が顔の前を通り、健側の方にくるように内旋します(内旋)。


てこの原理を利用して行うヒポクラテス法について
①背臥位の患者に接して座り、踵及び足の外側縁を患側腋窩に当て、肩甲骨を固定する
②両手で前腕部を握り、徐々に外転・外旋位に末梢牽引する
③同時に測定部を入れて牽引し、足底部を支点として内転・内旋して整復する
吊り下げ法であるスティムソン法は患者腹臥位とし、患肢をベッドの端から下垂させ、10~15分、10キロ程度の重りを付け、牽引すると自然整復される方法です。牽引中に肩に内・外旋を加えると、整復に役立つと言われます。


固定は再発防止と周囲軟部組織の早期回復を目的に約3週間行います。腋窩枕子、厚紙副子を当て、麦穂帯にて上腕を体幹に固定するように巻き、三角巾で吊ります。(*肩関節軽度の屈曲内旋位固定となります)
後療は最初の1週間は冷湿布で冷やし、その後経過を見ながら温熱・手技療法を行うと共に、手指・肘関節の自動運動、コッドマン体操(振り子運動)を行わせます。
3週間で固定を除去しますが、自動運動では外旋・外転運動を制限。スポーツ参加は最低2ヶ月禁止とします。


肩関節脱臼の合併症として、まず骨折が挙げられます。
(1)大結節骨折
Ⅰ型は骨片が骨頭に追随するⅠ型、骨片が正常な位置に存在するⅡ型、骨片が肩峰下に退縮するⅢ型の3つに分類できます(デパルマの分類)。脱臼の整復により、骨折も整復されるので特にⅠ型、Ⅱ型は保存療法の適応であります。


(2)外科頚骨折
脱臼した上腕骨頭は烏口下に転位し、骨折した近位骨片は骨折面を90度以上回転させます。整復は最大外転位による持続牽引療法を行いますが、骨折は整復されても、脱臼は整復されない場合が多く、観血療法の適応となります。


その他に(3)関節窩縁の骨折(骨性バンカート損傷) (4)上腕骨骨頭骨折があります。
また骨折以外の合併症として、神経損傷は腋窩神経麻痺(三角筋麻痺のため肩関節外転不能)、筋皮神経麻痺があり、血管損傷(腋窩神経麻痺)、あと腱板(肩甲下筋)損傷、バンカート損傷といった軟部組織損傷があり、十分注意が必要になります。