肩関節脱臼について(現場臨床論)


最後は肩関節脱臼についての当院における臨床のお話です。

 

当院の発生状況として、2つ申します。

①10年間で8例しかありません。これは肩関節脱臼患者の激減です。

②その8例のうち、7例が60歳以上であり、これは脱臼患者が高齢化している

ということです。

 

肩関節脱臼の整復法には、前回申したコッヘル氏法、ヒポクラテス法がありますが、これら従来法は熟練した経験が必要で、高齢者に対しては骨折を起こす危険性があり、今は行わない傾向にあります。


また最近の実用書に、コッヘル氏法やヒポクラテス法は記載されていません。記載されている整復法は、牽引と外旋による整復法と外旋整復法です


当院で行っている徒手整復法は、所謂「回旋牽引法」です。当法を行うことで、非常に良好な成績が得られています。

 

この回旋牽引法について説明いたします。

・まず患者を背臥位とします。

・助手にタオル等で腋窩を保護して固定させます。

・術者は一手で肘関節部、他手で手関節部を把握し、上肢軽度外転位、肘関節伸展位で牽引しながら、回旋を繰り返すという手法です。


当院での症例報告を致します。

症例1は65歳女性

前日の夜に自宅廊下で転倒し負傷し、翌日午後、他院を回ったりして、17時間経過後に来院されました。

痛みが強く上肢をあまり動かせない状態で、なおかつ腫れもかなりひどかったので、回旋牽引法を行い、整復成功に至りました。回旋牽引時間は35秒でした。


症例2は82歳男性

漁師であり、漁港をしていた際、足を滑らせ転倒し、手を衝き負傷され、すぐに来院されました。肩関節前方烏口下脱臼と判断し回旋牽引法を行いました。整復所要時間は13秒でした。


症例3は35歳男性

柔道の練習中、投げられた際、受け身を取り損ね負傷したものです。前方烏口下脱臼と判断し、回旋牽引法を行いましたが、青壮年の男性は筋肉層が厚く、本法を行うと、術者は相当な力が必要となり、整復時間も1分33秒を要しました。

 


以上の事から、回旋牽引法は高い年齢層や時間が経過した脱臼に対しては有効である。

 

ただし、青壮年男性に対しては、早めに挙上法に切り替えるのが望ましいと言える。


最後になりますが、最近私が思う事があります。それが上腕骨頭が上・中関節上腕靭帯間のバイトブレヒト孔ではなく、中・下関節上腕靭帯間のルビエール孔を通って前下方に脱臼するなら、「下方に牽引するよりも外転位の位置で牽引する方が整復しやすいかもしれない」ということであります。

今後、肩関節脱臼の来院遭遇があり、必要と判断した場合は、外転位で回旋整復法を行ってみたいと思っております。